塾の休み時間に取り留めのない雑談をしているときだった。
「志摩のその傷って結構目立つよなー」
と、何気なく奥村が言ったのは。
ほんの一瞬、自分の体が硬直したのを自覚する。向かいに座る志摩と子猫丸がこちらの様子を伺う気配を感じるが、視線を合わせることができない。何となく微妙な空気を珍しく感じ取ったのか、隣の奥村が「ん? どうした?」と首をかしげる。
「…別に何もあらへん。…そうやな、これでも昔に比べれば薄なったほうやで」
「そういえばそうですねぇ」
取り繕えば、子猫丸が相槌を打ってくる。
気にしていない、と思わせたいところだが、気にしていないと見せたいと思っている、というところまでバレてしまっているのが幼馴染の有難くもやっかいなところだ。
「けど何だってそんな傷できたんだよ。女子に見蕩れながら歩いててぶつけたとか?」
「奥村くんが考えとる俺のイメージはよぉ分かったわ。けど残念。そんなんとちゃいますえー」
これはなぁ、と志摩がもったいぶった言い方をする。
「男の勲章なんやで」
そんな勲章捨てぇや、という台詞を飲み込んだ。
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おそらくしますぐを書く上で避けられない志摩の傷ネタなんですけど、もう世には素敵な傷ネタ作品が溢れてるからもういいかな、と冒頭で放置。
頭から血だらだら流してる志摩と擦り傷くらいの坊が寺に帰ると、みんな坊のことばっかり心配するから、子供心に得体の知れない明陀の業の深さを感じて恐怖する坊の話を書きたいなぁと思ってた気がします。
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