「ただいま」
「おー、お帰り雪男」
「おじゃましとります」
「ただいま、兄さん。勝呂君もいらっしゃい。兄さんの勉強を見てくれてたの?」
「まあそんなとこですわ。こいつホンマ物分り悪いっちゅーか」
「不肖の兄がお世話になってます。というか、塾の外なんだから、敬語じゃなくてもいいのに」
「あー、まぁ、なんや癖になっとるしなぁ。学校ではだいぶ使い分けできるようになったんやけどなぁ」
「そういや同じクラスだったっけお前ら。ずりぃよなぁ。俺も勝呂と同じクラスがよかったぜ」
「せやったらこの問題くらいちゃっちゃと解き。全然進んどらんやないか」
「ううううるせぇなぁ。これくらい俺が本気出せばなぁ!」
「へぇへぇ」
「はいはい」
「ふ、二人して俺を馬鹿にしやがったな! 見てろよ!」
「やっとやる気出しよったか…」
「まったく、いつもそれくらいやる気を見せてくれればいいんだけどね…。そういえば勝呂君、この前話してた悪魔薬学の本の話なんだけど、僕の私物でよければ借りていくかい?」
「あ、覚えててくれはったんか。そら借りれたら助かるけど、ええんですか…っと」
「ハハハ。いいよ、僕はもう何度も読んでるし、とりあえず今は必要ないから。えっと、確かこの辺に………あぁ、あった。はい、どうぞ」
「おおきに。………ずいぶん読みこまれとるなぁ」
「ああ、それは元々は父の本だったから」
「…ジジィの?」
「うん」
「………。ほんまに借りてええんか?」
「いいんだよ。後生大事に仕舞い込んでても仕方ないし、勝呂君なら信用できる」
「…おおきに」
「なぁ、ジジィの持ってた本って残ってんのか?」
「あるよ。僕が何冊か持ってきたのもあるけど、教会にもかなり残してきてる。兄さんも読むかい?」
「あー…そーだなー…気が向いたら…」
「まずはその宿題片付けてからやな」
「うっせぇ勝呂」
「…ん? 本に写真挟まっとったで。同じ背格好のガキ二人…これ、お前らか」
「どれ? ああ、本当だ…。僕と兄さんと、神父さんだね。いつ挟んだのかな。覚えてないや」
「これいつん時のだ? 低学年くらいか?」
「そうだね」
「奥村はやんちゃそうやし、センセは真面目そうやし、なんや今と背丈以外変わっとらんとちゃうか」
「すーぐーろー」
「まあ、兄さんの落ち着きのなさに変化がないのは確かだね」
「雪男! お前なぁ!」
「そんでこの人がお前らの親父さんか…。あんま顔は似とらんな」
「血の繋がりはなかったからね。だから苗字も違ったし」
「苗字………なぁ、ひょっとしてこん人、藤本いうんと違うか?」
「え…そうだけど、どうして?」
「…俺、親父さんと会うたことあるかもしれん。ガキんときに和尚んとこ訪ねてきたことあったわ。和尚が『藤本君』て呼んどった」
「マジで?」
「おん、思い出したわ…。『お前、俺んとこのガキどもと同じくらいじゃねーのか。元気に育てよー!』つって頭わっしわし撫でられてん。でっかい手ぇしとるなぁって思ったの覚えとる」
「ああ、それは分かるよ。よく首がもげるかと思う勢いでやられたからね…」
「さっきの誰やって訊いたらな、和尚、笑って『友達や』ってしか教えてくれんかったんや。まあ、あんとき既に俺には言えんこと仰山抱えとったからな…」
「勝呂君…」
「勝呂…。………あのさ、それって別にお前に隠し事するためとかじゃなくて、ホントに友達って思ってたからじゃねーのか?」
「あ?」
「いやだからほらあれだよ、俺だって勝呂を誰かに紹介するとき『友達だ』って言うぜ? わざわざ塾がどうの候補生がどうのいうよりも、まずそれを伝えようって思うし。だから、そういうことじゃねーのかな…」
「おま、…は、恥ずい奴やな…」
「な、なんだよ!」
「…せやけど、まあ、あれや。…おおきに」
「お、おう」
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ごめん、最後で雪男空気…。
というか会話文でこの長さは読みにくいのでは…すいません。
[3回]
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