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期間限定の青エク部屋。勝呂贔屓。
2025 . 05
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    支部に投稿したパラレル燐勝。
    力に覚醒せず何も知らないままの燐と正十字学園に通う坊が偶然出会う話。
    燐勝というか燐+勝。

    「そんくらいで止めぇや」
     降り下ろそうとした拳が眼前の男の顎を砕く直前に寸止めできたのは、割り込んできた声の耳慣れないイントネーションに軽く意識を引っ張られたからだ。掴んでいた襟首を無造作に離すと、とっくに気絶している男の体がどさりと崩れ落ちた。声がした方を振り向けば、路地裏の隙間から差し込み始めた朝日の眩しさに目を細める。そこには逆光を背にして、自分よりも幾分か体格のいい男が立っていた。徐々に明るさに慣れていく目で、じっと男を観察した。
    (ニワトリのトサカみてぇ…)
     朝日をキラキラ反射させている金髪メッシュ、耳たぶをじゃらりと縁どるピアス、顎髭、こちらを睨みつけるような鋭い目つき。どう見ても自分の足元に転がる男たちのお仲間のような風体だ。
     新手の出現にも焦りなどなかった。今更一人増えても、相手が自分より体格がよくても、問題ではなかった。幾許かの虚しさはあったが。
    「仲間の敵討ちってんなら相手になるぜ?」
    「ただの通りすがりや。仲間とちゃう。お前が相手殴り殺しそうな勢いやったから、思わず声かけてもうたんや」
     西の訛りで返された言葉に、今度は完全に力が抜けた。改めて自分が潰した数人の男どもを見下ろす。
    (またやっちまったな…。何やってんだろう、俺)
     中学を卒業して、養父のツテの定食屋で働き始めた。双子の弟が高校の寮に入るというので、それを機に自分も住み慣れた修道院を出て、古いアパートで一人暮らしを始めた。新しい環境での生活は、何かが変わるだろうと思った。思っていた。
     けれどもこうしてガラの悪い連中に絡まれて、カッとなって拳を握った。すぐ頭に血が上って、暴力を振るう、何も変わっていない自分。
     たまには顔見せに帰って来いよ、と自分を送り出した養父の姿を思い出す。修道院を出てひと月余り経つが、最初の頃に数回電話をしたきり、連絡を取っていなかった。呆れられるのが、失望されるのが、嫌だった。
     弟とも会っていない。


    「…ィ。オイ!」
     ぱん、と手を打ち合わせる音がして思考の深みから抜け出すと、正面にトサカの奴が立っていた。
    「ぼーっとすんなや。人の話聞いとるんか」
    「へ…、えーと?」
     明らかに聞いていなかったと分かる俺の態度に、男は深々と溜息を吐いた。
    「さっきまでの鬼気迫る感じはどこ行ったんや…。ソレ、お前のかって訊いたんや」
     指さされた先には破れたビニール袋からはみ出し、ところどころ土に塗れたり、踏みつけられた幾つかの野菜が転がっていた。
    「…まぁな。折角頑張って早起きして朝市に行ってきたのによ、戦利品がパァだ」
     節約しつつ料理を練習するための涙ぐましい人の努力を無駄にしやがって。そう思うと、勝手に因縁をつけて絡んできた連中に対する怒りが沸々と再燃してきそうだった。けれどもその矛先は「ぶはっ」と突然吹き出した男に向いた。
    「朝市て。俺はてっきり、夜通し飲んだくれとるような連中の喧嘩とばっかり…っ」
    「あぁん!? こいつらと一緒にすんな! そういうお前だってお仲間なんだろうが!」
     くつくつと笑っていた男は、俺の言葉に最初から良くない目付きをさらに鋭くさせてきた。
    「そっちこそ一緒にすんなや! 通りすがりや言うたやろうが! 俺は朝のジョギングの途中や!」
    「ジョギ…ぶふっ! 爽やかすぎるだろ! ど、どのツラ下げて…!!」
    「喧嘩売っとるんかコラ!」
    「やんのかオイ!」
     がっ、とお互いの襟首を掴んで睨み合う。ひとしきりガンを飛ばしあっていたが、ふと物凄く馬鹿馬鹿しい状況であることに気づいてしまって、手の力が抜けた。
    「…何やってんだろうな、俺ら」
    「…おう、そやな」
     相手も同じことを思ったらしく、どちらともなく手が離れた。
     何となく気まずくて、無言で落ちてる野菜のまだ料理に使えそうなものを拾い始めると、トサカの奴も何も言わないまま手伝ってくれた。赤の他人の喧嘩に割って入ったことといい、見かけによらず人がいいのかもしれないなぁ、とぼんやり思った。


    「ほな」
    「…あ、なあ!」
     二人で野菜を集めて、ついでに俺が潰した連中を壁際に寄せてから、男は立ち去ろうとする。その背中に思わず声をかけると、相手は怪訝そうな顔をしながらも振り返った。
    「悪かったな、手伝わせて。俺、奥村燐」
    「…勝呂竜士や」
    「へへ、じゃあな、勝呂!」
    「おう」
     表通りに消える勝呂の後ろ姿を見送ってから、自分もアパートへの家路を歩き始める。思わぬ時間を食ったせいで、仕事の時間までそうゆっくりはしていられなさそうだった。それでも足取りは軽かった。
     何も変わっていやしなかったけれど、これから何かが変わるかもしれない。
     そんな予感があった。

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